ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
「ただいまー」

いつもより重たく感じる玄関のドアを開けると、リビングにはまだ明かりがついていた。

遅い時間なのは間違いない、連絡をせずにいたのも分かっている。叱られるのを覚悟してそっとリビングのドアを開ける。

「うた、遅かったわね」

案の定、そこには少し険しい顔のお母さん。

「ああ、うん」

時計を見ると、9時すぎ。微妙な時間だった。もっと遅いと思っていた。

「スマホ充電切れちゃって、連絡できなかった」

叱られるような時間ではなかったことにホッとしたが、まだハルを待つことができたんじゃないか、なんて思ってしまう。

「夕ご飯は?」

「ああ……いらない」

そういえば、夕ご飯食べてなかったな。お腹も空かなかったし。

お母さんが背中から何か文句を言っていたけれど、そんな言葉を受けるエネルギーは残っていなかった。

そのまま2階の自室へと上がり、上着も脱がずにベッドに寝転がる。

見上げた無機質な天井には花弁のような形をした小さなシミがある。

もうすぐ、桜咲くかな。

目の奥と胸が、ギュウッと熱くなり痛い。

泣けない……泣かない。

ハルが

来なかった。
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