ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
なぜだろう。

私は何も考える間もなく自然とその缶を取り出して蓋を開けていた。

他人の想い出に手を出すつもりなんてないのに。

その中には手紙らしいものが見える。

缶の古さから考えると、その白い封筒は場違いのように新しく輝いていて、私は思わずその封のされていない手紙を手に取り裏返して表面を見る。


えっ……？


そこには、華奢な文字で『浅谷 うた様』そう書かれていた。


その右下には、同じ文字で『夢野 ハル』

ハル？

なんでハルが？私に手紙？

桜の花びらがその封筒の上に落ち、まるで模様のように見える。

私は暫くその華奢な文字を見つめていた。

ハルらしい、その丁寧な文字に見惚れていた。

そして、ユキヤナギの木の前にいつものように座り、震える手で手紙を取り出した。

数枚に渡るその手紙には、宛名と同じ華奢な文字が並んでいた。


ハル……。


これを読めば、ハルの気持ちが分かる。それを知るのは少し怖い気もしたが、これできっと私は前に進める。

ここで立ち止まっているわけにはいかないんだ。

大きく深呼吸をして、私はハルの気持ちを読み始めた。
< 157 / 211 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop