ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
そんなに長い時間ここにいたとは思わなかったが、もういつものチャイムが夕暮れの町に鳴り響いた。

子供の頃は、このチャイムの音が嫌いだった。
楽しい時間の終わり告げる音だったから。

「……でさ、結局引退するまでには男子部員が僕も入れて5人になってたよ」

「そっか、5人は寂しいね」

いつまで話していても、尽きることなんてなかった。

「うたは?バレー部だっけ?いいな、運動できて」

「いやいや、弱小バレー部だからね。試合に勝ったことなんてほとんどないよ」

「あはは、でも楽しそう」

春とはいえ、まだ日が暮れるのは早かった。

瞬きするたびに色を変えてゆく景色に物悲しささえ感じてしまう。



「そろそろ帰らないとな」

紫がかった空を見上げながらハルが呟いた。

「まだ大丈夫だよ」

「送って行こうか?」

ああ、こりゃダメだ。帰らされるパターンだな。

「お家の人が心配するよ」

私が少し拗ねているのに気がついたのか、今度は優しく言った。

「じゃ、帰るね」

「うん、またね」

ここで、もっと一緒にいたいと駄々をこねたら、ハルはどうするのだろう。

まだ一緒にいてくれるだろうか。

そんなワガママを言えるほど、まだハルのことを知らないし、そんな勇気はない。

ハルは私ほど、一緒にいたいと思ってくれていないのかもしれない。

仕方なく私は腰を上げ、笑顔のハルに見送られ少しずつ暗さを増していく丘の階段下りる。



道端に置かれたままの自転車が、夕陽色に染まっていた。
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