ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
「ふふふ」

詩織は柔らかく笑って僕の左胸を指差した。

そこには外し忘れた、祝卒業と書かれた花飾り。

「ああ、あはは」

僕は恥ずかしくなって花飾りをはずして無造作にカバンに突っ込んだ。

「卒業、おめでとう」

「ああ、うん。詩織もおめでとう」

2人で顔を合わせてお辞儀をする、なんだか変な感じだった。

まだ、ぎこちない会話、仕草。

「泣いたでしょう?卒業式」

「えっ⁈」

カバンのチャックを閉める手を止め、慌てて目と頬を両手でさする。

「あー、そんなことしたら余計に赤くなっちゃうよ」

花飾りといい、泣いた後の赤い目といい……見透かされっぱなしで悔しい。

誰とでも割とすぐに仲良くなれる僕が、女子に振り回されることはなかなかない。

でも、嫌な気はしなかった。


「……良いな、素直に泣けて」

でも、次に詩織の口から出た言葉は予想外のものだった。

会ったばかりだけどコロコロと表情を変えて話す詩織は、僕にはとても素直に映っていたから。
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