ユキヤナギの丘で、もう一度君を好きになる
「ただいまー」

いつものように玄関のドアを開け、しっかりと鍵をかけた。おかえりーと言う母さんの声を聞きながら自室へと入る。

何も変わらない日常。

卒業式だったなんて、夢の中の出来事だったようにすら感じる。

カバンを置き、制服を脱ぎ始める。

ああ、これを脱ぐのも最後だな。

部屋着に着替えてベッドへと倒れこむ。

枕元の地域情報誌。もう何度か目を通したが、詩織の言っていた新しいパン屋が載っているかもしれないと思い、とりあえずパラパラとページをめくる。

お目あての店はなかったが、リビングから母さんが僕を呼ぶ声がしたので、気を取り直して部屋を出る。

「おばあちゃんが、卒業祝いに何か食べに行こうかって」

そう僕に言いながら、母さんはもう出掛ける支度を始めている。

じいちゃんが亡くなってからよく家に遊びに来るようになったばあちゃんは、僕を見てニコニコしている。

「卒業おめでとう、しゅんちゃん。何食べたい？」

「なんでもいいよ、ばあちゃん」

そう答えながら、僕も着替えをするために部屋へと入る。


詩織はもう家に着いたかな……なんて考えながら。
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