好きだから、じゃん
story1
隣の君へ (桐山 咲斗)
オレンジ色に染まる廊下を早足で歩く。
今日は所属しているバスケ部の練習が早めに終わった。
教室で待つ莉菜子(りなこ)を思い浮かべるだけで、自然と早足になる辺り、俺は本当に莉菜子に惚れていると思う。
本人には絶対言えないけど。
何気なく窓の外を見ると、手を繋いで楽しそうに歩いていく男子と女子の姿。
それに自分たちの姿が重なる。
今日はどっか行けるかな。
最近、部活が忙しくて全然デートも出来ていなかった。
とりあえず相談してみて、あいつの行きたいとこ今日は文句なしに付き合おう。
そんな計画を立てながら、自分の教室に入りかけて足を止めた。
「えー、いいなー、ホント羨ましいー」
「えー?ホント?うちはいっつもそんな感じだよ」
こっちに背を向けるようにして何やら盛り上がっている2人の女子。
彼女の莉菜子と、もう1人はその親友、若松だ。
教室に入りかけたその一歩を引っ込めて、隠れるように話の続きに聞き耳を立ててしまう。
「いいなー、そうやって言葉にしてくれる彼氏って本当に羨ましい」
「桐山くんだってちゃんと言ってくれるでしょ?」
「無理無理。咲斗(さくと)はそういうの絶対言ってくれない。好きだよとかも滅多に言わないし」
何の話をしてるのかと思えばそういう話ね…。
「正直に言ってみれば?たまには素直に言葉にしてくれないと不安になるよって」
「無理だよ、絶対」
顔を見なくてもわかる。
莉菜子は今、絶対に不満そうな表情を浮かべている。