幼なじみとさくらんぼ



「あ、もしかしてそれ八島への弁当?」

田村くんが私の手元を見た。

今朝もバタバタと忙しかったから、またハチにお弁当を渡すのを忘れてしまったんだ。


「俺が渡しておこうか?」

「本当?じゃ……うんお願い」

6組から1組までけっこう遠いし、もうすぐ次の授業が始まるから助かっちゃった。

ハチ専用のブルーの包みを田村くんに渡して教室に戻ろうとした時、田村くんが「あ!」と声を出した。


「そういえば八島のヤツ毎日弁当ふたつ食べてんの知ってる?」

「……ふたつ?」    

「うん。岡崎さんのと栗原先輩の」


……え。嘘でしょ?

たしかに栗原先輩が作ってくるって話になった時もあったけどハチはなにも言ってこなかったし。

てっきり私はふたりで話し合って解決したんだとばかり……。


「八島は断ったみたいだけどそれでも先輩が作ってきてさ。あいつ優しいから突き返すこともできなくて毎日ふたつ食ってんの」

田村くんは少し面白がっていた。

ハチは細いくせに大食いだから作る時は必ず倍の量にしてるけどさすがにふたつは……。


「そんなの全然知らなかった。ムリして食べてるぐらいなら言ってくれたらよかったのに……」

私は習慣的に自分のとセットで作ってるだけだし。私に作らなくていいって言ったら傷つくとでも思ってるのかな。

私がハチに気を遣うと怒るくせに、どっちが気を遣ってるんだか。


「あ、違う違う。ムリして食べてるのは岡崎さんの弁当じゃなくて栗原先輩の弁当だよ」

「え?」

「いっつも岡崎さんのから食べるからなんでって聞いたら、ナナのは残したくないからだって」

なにそれ。

ハチは野菜嫌いだからこれでもかってくらいお弁当に野菜入れてるのにハチはいつもお米一粒も残さない。

犬が舐めたんじゃないのってぐらいキレイなお弁当箱で戻ってくる。


「八島ってさ、岡崎さんのことばっかり考えてるって思ってたけど、違うなって最近気づいたんだよね」

「……」

「アイツは岡崎さんのことしか考えてないんだよ」

田村くんはニカッと笑って教室に戻っていった。


もう、みんなしてなんなの。

ハチと私はただの幼馴染みなんだってば。

そう思いながらもまた胸がぎゅっとなった。


< 103 / 152 >

この作品をシェア

pagetop