幼なじみとさくらんぼ
◇◇◇◇
「あのさ、なにか私に言うことないの?」
その日の夜、ハチはまたうちに来た。
私が部屋で勉強してるのに我が物顔で居座って漫画を読んでいる。
「へ?ないけど」
「……」
ハチは今日もお弁当をキレイにしてきた。栗原先輩のお弁当のことを聞きたいけど、そしたら田村くんが告げ口したみたいにならないだろうか。
むしろ「ふたつ食べてるの?」って聞いたところで「うん。そうそう」って軽い返事をするのがハチだ。
いっそのこと私も学食にするからハチもそうしてって言ってみようかな。いや、学食にお金を使うならそれで新しい参考書がほしい。
「ナナさ、あいつとはどうなったの?」
「あいつって?」
「昨日一緒にいた松本って人」
ああ、そういえば健二くんにメールの返事してないや。早めに日曜日の件のことも言わないと……。
「どうってなにも。健二くんも言ってたでしょ。この前道端で偶然会ったって。だからお互いのことまだよく知らないの」
「ふーん」
聞いといてその返事はなくない?
漫画のページパラパラめくりながらこっちすら見ないし、私は勉強したいのに!
「そろそろ帰ったら?ハチの家も晩ごはんでしょ」
「今日母ちゃん遅くなるって言ってた」
「……」
ハチが私のことしか考えてない?
ハチの頭にあるのは食べ物と自分のことだけだよ。本当に私のことを考えてくれてたらここは空気を読んで帰るところでしょ。
「邪魔って言ったらどうする?」
「はは。いつも思ってんじゃん」
自覚があるならよかったです。
「帰って」
「やだ」
「帰ってください」
「いやです」
「あーもー!!」
私はバッと立ち上がってゴロゴロしているハチの元に行った。