幼なじみとさくらんぼ
結局ハチはお昼に学校に来た。
だれよりも睡眠を取ったはずなのにまだ眠そうで、言うまでもなく超不機嫌。
「それ早く渡しにいけば?」
不審者のごとく教室をうろうろしている私に裕子はため息をついていた。〝それ゛とはハチのお弁当のこと。
午前中の授業を受けてないんだし、お弁当なんていらないと思うけど作ってきちゃったし。かといってなに食わぬ顔で渡しに行けるほど神経は図太くない。
「サッと行ってサッと戻ってくればいいんだよ。それに八島くんだってもう怒ってないかもしれないし、このまま長引いたほうがもっと面倒じゃない?」
……う、たしかに。
ハチと喧嘩したことは今までも数えきれないほどあった。
些細な口喧嘩から始まって最後は掴み合い……なんてこともあったっけ。まぁ、一方的に掴みかかってたのは私なんだけど。
私がムキになってティッシュ箱とかその辺の物を投げてもハチは投げ返してこないし、ちょっと当たりどころが悪くてハチの顔に擦り傷ができた時もハチは絶対に私に手は出さなかった。
男が女を殴るなんて最低だって私も思ってるけどハチは家族みたいなものだし、血がのぼった私に対してハチが叩いたとしても最低だとは思わないと思う。
ハチは能天気で普段はぽわーんとしてるけど、怒る時には必ず理由があるから、ハチに殴られるぐらい全然平気。
そう考えると、やっぱり昨日は私が悪かったのかな。
意を決して1組に行こうとしたけど、タイミングよく栗原先輩の姿が見えて私は亀のようにまた首を引っ込めた。
先輩はきっとハチにお弁当を持ってきたんだろうし、ハチがお腹を空かせていたとしてもそれで満たされる。
……私は一体ひとりでなにをやってるんだろう。
お弁当なんて作ってくるべきじゃなかった。