幼なじみとさくらんぼ



「寒くない?マフラーは?」

「あ、今日はちょっと忘れちゃって」


朝はかなり寒かったはずなのにハチのお母さんから聞いた言葉を繰り返し頭の中でリピートしてたら、すっかりマフラーなんて忘れていた。

むしろイライラして寒さなんて感じなかった。


「じゃ貸してあげる。はい」

健二くんは自分のマフラーをそっと私の首に巻いた。


「え、いいよ!私そんなに寒くないし、そしたら健二くんが……」

「いいのいいの」

マフラーからは健二くんの匂いがした。なんだか高そうな香水の香りがして、恋愛初心者の私はそれだけでクラクラしてしまう。

そして私たちは噴水の前のベンチに座った。


「ここの公園ってけっこう有名なデートスポットになってるらしいよ」

「そうなの?」

「時計が午後6時になるとこの噴水が音楽と一緒に動くんだけど、それを見たカップルは幸せになれるんだとか」


だから学生のカップルも何人かいるのか。

恋愛してる人ってそういうジンクス好きだよね。運気が上がるパワースポットなら興味があるけど、幸せになれるとか願いが叶うとかの類(たぐ)いはどうもあまり信じられない。


健二くんと学校の話や勉強の話をしていたら、いつの間にか公園が夕焼けに染まっていた。


「それで今日その先生がさー」

今日の健二くんはいつもよりお喋りだ。

もしかして私に気を遣ってくれてるのかな?私もなにか面白い話でも用意してくればよかった。

そんな中、なんとなく視線を感じてそっちを見ると、公園内でガラの悪そうな人たちが数人でこちらを見ていた。


< 121 / 152 >

この作品をシェア

pagetop