幼なじみとさくらんぼ



今日のハチは珍しくメガネ姿だった。

視力はいいけどドライアイだからたまにメガネをかけてるけど学校にしてくるなんて珍しい。

ちょっと咳こんでるし、だるそうだしまだ本調子じゃないのかも。


「ねぇ見て。八島くんメガネかけてる!やばーい!」

「本当だ!写メ写メ」

やっぱりハチってモテるんだよね。

ひとりだしチャンスって思ったのに女子が騒いでるから、なかなかトイレから抜け出せない。

こうして見るとハチって学校で目立つんだな。
近づけないとか今までなかったから主観的に見たことはなかったけど。


「なにしてんの。早く謝ってきなって」

ただ廊下を覗くだけの私の背中を裕子が押した。


「わ、ちょっと……!」

その勢いで私はやっとトイレから出た。大声を出したせいでまだ心の準備もしてないのにハチと目が合ってしまった。

窓拭きの手が止まるハチ。
そしてヘンな体勢で停止している私。


「あの、ハチ……」

「八島くん。教室の天井のホコリこれで叩(はた)ける?だれも届かないからお願い」


私が声を発したと同時に1組の女子がハチを呼びにきた。まだ返事をしてないのに無理やりハチの腕を引っ張っている。

せっかく勇気を出して話しかけたのに。こんな緊張感を2回も味わうなんてムリ……!


「ハ、ハチ。ごめんっ!」

私は後ろ姿のハチに叫んだ。


「色々言い過ぎたし反省してる。本当にごめん。それに今日はちゃんとお弁当作ってきたよ。ハチの大好きな肉巻きも入ってる。だから……」

だから仲直りしようって言うつもりだった。

それなのに……。


「……あとで田村に渡しておいて」

「え……」

ハチの返事はたったそれだけ。

私の謝りには応えずにお弁当はとりあえず受け取るらしい。しかも直接ではなく田村くんを通して。


……もう、本当になんなの。

ハチがわからない。わからないよ。


< 128 / 152 >

この作品をシェア

pagetop