幼なじみとさくらんぼ
車のガレージのようになっているこの建物に屋根はなくて、上は吹き抜けになっていた。だからなのかすごく寒くて震えが止まらない。
動きたくても私の両手は後ろの柱に縛られていて、やっとこの状況が理解できるようになってきた。
「なんでこんなこと……」
「んーなんでだと思う?当ててみて」
先輩は私を挑発するように注射器をクルクルと回した。
私はまだ先輩がこんなことするはずないって心では思ってる。だって先輩は何回も私を助けてくれたし、いつも優しかった。
周りの評判なんか関係なしに私の憧れの人だった。
そんな先輩が私に妬みや恨みの感情を持つとしたら……。
「ハチのことですか?」
それしか考えられない。
ハチとの距離感について私も悩んでいたし、先輩悪いなって何度も思ってた。女の嫉妬は怖いって裕子も言ってたけど、もしそれでずっと先輩が私のことを……。
「わ、私ハチと先輩の仲を壊そうなんて思ったことないし、それに……」
「ぷ、あはは!それ本気で言ってる?」
先輩の笑い声が建物内に響いた。
「私が嫉妬してこんなことするわけないじゃん。私さ、七海ちゃんと瞬の小さい頃から一緒で家族みたいな幼馴染みアピール嫌いっていうか、気持ち悪いって思ってた」
動けない私と先輩の目線が同じになる。
「いい年してお互いに依存しちゃってさ、よく恥ずかしくないなって」
「……」
「あ、もしかして依存してる自覚なかった?私はしっかり者でいつもハチの世話をしてあげてるって、七海ちゃんのその顔も嫌いだったんだよね」
先輩が見せてくれた笑顔も言葉も全部幻だったかのように消えていく。