幼なじみとさくらんぼ



「瞬くんが来てくれて助かっちゃった。まだ帰らないでしょ?バームクーヘン食べる?」

「食べる食べる!」

「じゃ、あとで七海の部屋に持っていくから。あ、それと七海は自分のアルバム部屋に持って行きなさいね」

コロコロと変わるお母さんの表情。

手渡されたアルバムはやっぱりホコリまみれ。これって小さい時のやつじゃん。置いておく場所ないんだけどな……。

バタンッとドアを閉めるとハチとふたりきり。

気のせいではなかったみたい。


「なんでライン無視?電話もしたんだけど」

さっきまでニコニコ笑ってたくせにハチは今怖い顔。


「充電切れてた」

こういう時は言葉少なめにした方がいい。ハチのキレスイッチだけは押したくない。


「ずっと待ってたんだけど。帰り」

「え?だって栗原先輩と帰るんじゃ……」

「毎日は帰らないよ。そんな約束してないし」

いやいや3日連続で帰ったら毎日だと思うじゃん。それに私たちだって約束してるわけじゃないんだし。


「……栗原先輩は毎日ハチと帰りたいんじゃないの?」

用事がある時は別にしてもきっとそう思ってるはず。暇さえあれば階が違うのにハチに会いに来てるしね。


「そうだとしてもナナと帰れる日は一緒に帰るよ。今までだってそうだったじゃん」

「……」

そうだけど。

そうだけれども何か違和感。


「……はぁ。気とか遣うなよ。ナナらしくない」

そうか。私はハチに気を遣ってたんだ。ハチというかふたりに。

ふたりを見るとあのキス場面ばかり思い出してソワソワする。イチャついてる所を見るのは気まずいし、なるべく見えない所でやってほしいし。


「とにかく明日は帰るなよ。分かった?」

「……分かったよ」

なんだか立場が逆転。

そのあとハチはいつものハチに戻って、バームクーヘンをペロリと食べてしまった。

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