幼なじみとさくらんぼ
「明日の弁当に甘い卵焼き入れてね」
ハチはおもむろに立ち上がってそう言った。
明日の弁当って……栗原先輩が作ってくるんじゃなかったの?あれから断ったってことかな。でも先輩のを断って私が引き続き作ってもいいものなの?
もういっそのことハチが学食にしてくれたら丸く収まる気がするんだけど……。
「ってかなにしてんの?」
ハチは地面に向かってなにやらカチカチやっている。
「花火」
「花火!?」
ずっと気づかなかったけど、よく見るとハチのカバンにはそれらしき物が入ってる。コンビニで買ってきたのかな。
「ちょっと季節外れじゃない?」
「あ、ろうそく付いた!」
ハチはずっとろうそくに火を付けていたらしい。
いや、それはいいけどなんで花火なのって話。
だからわざわざ公園まで来たの?
「ナナ昔言ってたじゃん。誕生日には花火でお祝いしたいって」
言ったっけ……。あぁ、小学校の時に言ってその年はこうしてふたりで花火をやったような気がする。
でも近所の人に怒られて結局1回だけで終わった。
「ふっと昨日そのことを思い出してさ。めっちゃあの時怒られたよな。確かこの公園じゃなかった?」
「そうだよ。私誕生日に怒られるの嫌だよ」
「そしたらダッシュで逃げる」
ははっとハチは笑いながら手持ちの花火に火を付けた。ジュボーと赤い火花と火薬の匂い。
それを私に渡すとハチは自分の分の花火を私の火で付けた。
「来年も覚えてるから」
そんなセリフを照れずに言うハチはやっぱり昔と変わらない。でもライターが怖いって言って火が付けられなかった小学校の時とは違う。
変わってないけど少しずつ変わってるものもある。
綺麗な花火の向こう側にハチと先輩のキスを思い出していた。