幼なじみとさくらんぼ



42℃のお湯を溜めてカモミールの入浴剤を入れた。


「はぁ……気持ちいい」

ハチはお風呂に入るのかな?どうせシャワーですぐ出てくるだろうけど。

泊まるとか簡単に言うけど、どこに寝る気?ハチはリビングでいいか。ソファーもあるし毛布はいくらでもある。
 

……思えば〝俺の問題゛なんて初めてハチに言われたな。


ハチが考えてること、想ってることは手にとるように分かるし、今でも変わらない。

だけど栗原先輩の前ではきっと私の知らない顔をしてるんじゃないかなって最近は思う。


あの時、栗原先輩とハチがキスをしていたあの日。なんで私は動揺して犬の置物を落としてしまったのか。

見ちゃいけないものを見たんじゃなくて、私は多分見たくなかったんだと思う。

ハチが男の顔してた。

私の知らないハチの顔。


気づくと私はまたいつもの癖でブクブクッと生首のようにお湯に沈んでいた。

ヤバい。逆上せちゃう……。

そろそろ出前が届く頃だし早く出ないと。


「ナナ~?単3電池どこ?」

「!!」


――バシャンッ!

突然ハチの声が聞こえて私は慌てて浴槽に戻った。


「な、な、なに?」

「だから単3電池。リモコンが電池切れで使えなくなった」


それだったら私が出てからでもよかったんじゃないの?ってか私がもう少し早くお風呂から出てたら完全に見られてたじゃん!

まったく、なに考えてんの。本当に……。


「わ、分かったからとりあえずあっちに行って!電池ならあとで渡すから」

「ん~」

磨りガラスから見えていたハチの影が消えた。

せっかくお風呂で癒されてたのに台無しだよ。 


< 59 / 152 >

この作品をシェア

pagetop