幼なじみとさくらんぼ



「え、なにその仕事と私どっちが大切なの?みたいな質問」

「ふざけないで。真面目に聞いてるの」

「うーん。俺泳ぐの得意だからきっとどっちも同時に助けられちゃうと思うんだよね」


なんだかうまく誤魔化された感じ。

ここは彼氏として栗原先輩だって即答しなきゃいけないんだよ。それがきっと正解なの。


もしこれから先私に好きな人ができたとして、運よく付き合えたとしたら私はその人のことをハチ以上に想わなきゃいけない。

幼馴染みだからって優先的に考えてしまうこと。

それはきっと世間的にはダメなことなんだよ。

彼女がいるハチはとくに現在進行形の話だよ。


「でもナナは俺が溺れてたら助けにくるでしょ?」

「それは……当たり前じゃん」

「泳げる俺が助けにいくのと泳げないナナが助けにいくのとは意味が違うよ」


またポエミーなことを。

ハチが溺れることなんてまずないけど、それでも海のど真ん中でハチが溺れていたら。

例え足が着かない場所でも、例え波が荒れていてだれかに止められたとしても、私は迷わずに行ってしまうと思う。


ハチがどんな存在かって聞かれたら困るけど、大切よりももっと上。辞書には載ってない言葉なんだ。


< 63 / 152 >

この作品をシェア

pagetop