幼なじみとさくらんぼ



「す、すいません!」

ずっと下ばっかり見てたから人がいるの気づかなかった。私が地面に落ちたカバンを拾おうとすると……。


「あ、俺も前見てなかったから……大丈夫?」と、その人が先にカバンを拾ってくれた。


「……ありがとうございます。本当にすいませんでした」

顔を上げるとそこには制服を着た男の人が立っていた。たしかこの制服って頭がいい〝鈴高゛(すずこう)の制服だ。

私も進路希望の選択として考えたことあったけど家からは距離があるし、なにより医学に強い学校だから止めたんだ。


「俺の方こそごめん。……そんなことより顔色悪いけど大丈夫?」


その人は黒髪でスラッとした顔立ちだった。

声はハチより低くて体格はハチより大きい。だけど背は若干ハチより小さくて……って、なんで私はハチと比べてるんだろ。

「……あ、全然大丈夫です」

「本当?大丈夫って顔じゃないよ?俺そういうの見るの得意でって……初対面なのに気持ち悪いよな」

口調は男らしくて見た目も大人っぽいから多分年上だと思う。


「本当に大丈夫なので。ありがとうございます」

私はそう言って頭を下げた。

歩きだしてすぐにまたスマホに嫌なメールが届く。

【七海ちゃん。サイト見ました。今週の日曜はどうですか?45歳だけどお金はあります。項目に提示してある料金より倍の額を出すので日曜に……】

私は文を読み終える前に削除した。

顔も素性もわからない人から名前を呼ばれるって本当に怖い。

むしろ相手は私の学校も顔も知ってるわけだし、もしかしたら近くにいるかもしれない。

通りすぎるサラリーマンやバス待ちの男の人がみんな怪しく見えて、頭が痛い。


「ねぇ」

――ビクッ!!


突然肩を叩かれて悲鳴を上げそうになったけど、それはさっきのぶつかった鈴高の人だった。 


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