欲情プール
慧剛side:前編
「すまない、華那。
別れてくれ」
突然切り出した別れ話。
意味がわからないといったような混乱と、ショックを滲ませた表情がぶつけられる。
俺は懸命に動揺を抑え込んで、淡々と業務的に話を続けた。
「仕事の取引で婚約する事になった。
だからもうお前とは付き合えない。
これっきりにしてほしい」
「っっ、本気で、言ってるの?
私はずっとあなたを支えてきたつもりよっ?
3年もの間、ずっと!」
そう、彼女はいつも…
会えない日が続いても文句ひとつ言わず、忙しい俺を労ってずっと支えてくれてた。
「…感謝はしてる。
だから慰謝料を十分に用意した。
足りなければ言ってくれ」
「ふざけないでっ!」
差し出した小切手が、払われて空を切る。
「ねぇ慧剛っ…
愛はお金じゃないのよっ?
あなたはそんな人じゃないと思ってたのに…
愛されてると思ってたのにっ!
あなたを、愛してたのにっ……」
ああ俺も…
華那を愛してる。
だけど別れ際に言ってどうする…
責任の取れない発言や中途半端な優しさは、ただ残酷に彼女の心を縛りつけて、余計苦しめるだけだ。