欲情プール
思わず。

「よそ見してたら、俺が奥さんもらっちゃいますよ?って」

そう答えてしまったのは…
板についてた策略のせいか、咄嗟に出た願望なのか。


何にしても、クールさも失くして取り乱す茉歩が可愛い。

冗談だと言った俺に呆れ怒る姿も。
頭をぽんぽんとしただけで機嫌を直してくれる事も。


その全てが可愛いと思うのは…

そう思ったところで、胸がグッと締め付けられる。



「旦那さんには、名刺渡して。
"奥様にはお世話になってます"って、普通の挨拶したんだけど」

すかさず話を戻して、そう続けた。


隠してる事はあっても嘘は言ってないし、言いたくない。

茉歩は俺を信じてくれてるし、俺は茉歩を大事に思ってるから。


そう、部下として大事に思ってて…
部下として可愛いんだ。






だけどその数日後。


「専務、色々とありがとうございました。
夫が戻って来て…
離婚話はなくなりました」


「…そうか、良かったな」

言葉とは裏腹に心が沈んだ。

策略通りなはずなのに…


そして茉歩も同じく浮かない顔。

まぁこうも振り回されたら、気持ちの整理がつかないのも無理はない。
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