欲情プール

「茉歩、肩借りていいか?」


タクシーに乗り込むと。
そこで専務の精神力スイッチが切れたようで、苦し気な姿が露わになる。


「はい、楽な姿勢をとって下さい」


私の返事を聞くと同時。
「痛(つ)っ…」と顔を歪めながら、その身体が寄り掛かる。

多分、痛み止めもあまり効いてなかったんだろう。


「握ってて、…いいか?」


トンと触れた、専務の左手が…
そのあと私の右手を、ぎゅっとした。



「……いいですよ」

私もその手を握り返す。


こんな時なのに。
この胸は、専務の熱い体温に反応してて…

気を緩めたら、心がその熱に溶かされてしまうんじゃないかと思った。



ふと。

ー「ちゃんとやり遂げたら、
茉歩に撫で撫ででもしてもらおうかな」ー


思い出して…

思わず伸びた左手が、専務の髪に絡んだ。


そこをそっと撫でると…

何故だか愛しさが込み上げてた。



頑張った専務に、その弱った一面に。
そして、肌を侵食する体温に…


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