スノー アンド アプリコット
ユキはあたしの顔を確認するように見てから、静かに大倉に目を向けた。
「なんなんだ、君は! 杏奈ちゃん、今ここから出てきたけど、彼は、」
「あんた、馬鹿だなあ。」
狼狽する大倉を遮り、ユキが言った。
ごく淡々とした声だった。
「ぬくぬく、マジメに幸せに生きてきて、自分の価値観が世界の基準だと思ってんだろ。」
「.........」
……あんたが、それを言う?
あたしまでぽかんとしてしまった。
「杏奈の言う通りにそっとしとけば良かったのにな。興信所使って親の消息掴んだって? 余計なことしたな。親なんかどうだっていいだろ。あんたは、"杏奈と"結婚したかったんだろ。」
「君みたいな子どもに何がわかる! 結婚っていうのは、家と家が繋がることなんだ!」
違う。
中流階級の家庭で育った大倉なんかより、生粋のお坊ちゃま育ちのユキのほうがよっぽど、そんなことは言い聞かされて育っているはずだ。
なのに、どうして。
「両親に祝福されなきゃ、彼女だって幸せになれないだろ!」
「両親?」
ユキが鼻で笑った。
「杏奈の? あんたの?」
「ーーーっ……!!」
顔を真っ赤にして、ぐっと大倉が言葉に詰まった。
ユキは虫けらを追い詰めて愉しむような表情で続ける。
「そうだよなぁ。町工場潰して夜逃げして、娘を売ろうとした親の娘との結婚なんか、祝福されないよなあ。」
「違う、だから、僕の両親だって、ちゃんと、和解の機会を設けようと…」
「なんであんたの両親の為に、杏奈が親と和解しなきゃいけないんだよ。」
「両親の為じゃない、彼女の為に!!」
「杏奈の為? 何が?」
「だから、両親とこじれたままじゃ、杏奈ちゃんだって幸せになれないだろうって言ってるんだ! そんなこともわからないのか!!」
「幸せ、ねぇ…」