スノー アンド アプリコット

◆◆◆

「待て待て、お前…」

俺はギョッとして自分の部屋の前で足を止めた。
日は短くなり、すっかりあたりは暗くなっていた。

「まさかそれを俺の部屋に持ち込む気じゃないだろうな?」

季節は冬になろうとしている。
杏奈は何やらデカい段ボール箱と一緒にうんうん言いながらドアに挟まっていた。

段ボールには立派な完成図がプリントされていて…それはもしかしなくても、コタツだった。

「何よ、文句あんの? さっさと手伝いなさいよ。」
「そんっな貧乏くせーもん俺の部屋に持ち込むんじゃねーよ!」
「日本人の大発明になんて言い草よ。この非国民が!」

大声を出した拍子に杏奈がぐらつき、俺は慌ててドアを押さえ段ボールを支え、結局バカでかいそれを自分の部屋に自ら迎え入れることなった。

「何だこれデカすぎんだろ、明らかに部屋埋め尽くされんだろうが、考えて買えよ!」
「買ったんじゃないわよ、貰ったのよ。」
「誰に。」
「一井に。」
「てめえまだあの男と会ってんのかーー!!」

俺は組み立てたばかりの布団のついていない机をちゃぶ台返ししそうになった。

「そりゃ会うわよ。何よ、何もないわよ。」
「当たり前だ! あってたまるか!」

くっそあの男、俺の敵じゃないとか言いやがって、ちゃっかりしてやがる。
隙を見せたら取られる!

「なんか今の家に住むのがだいぶ長引きそうだから、年越し前に置いてある方の部屋を整理したら、これ、いらなくなったらしいわよ。」
「体よく粗大ゴミ押しつけられてんじゃねーか!」
「いいじゃない、あたし欲しかったのよコタツ。」
「ならなんで自分の部屋に置かねえんだよ!」
「え? デカすぎて邪魔だったから。」
「てめえふざけんなーーー!!!」
「うるっさい!」

スッパーン、と俺の頭に杏奈のスリッパが命中した。
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