スノー アンド アプリコット
だけど言えたのはたったそれだけだった。
俺に引っ掴まれて、顔を前に出す形になったまま、杏奈はそんな俺を呆けた顔で見つめて。
「…泣かないでよ。」
泣いてるのか、俺は。情けない。ガキなんだ、本当に。思い知った。
「仕方ないじゃない、どうしようもないのよ!」
「何がっ…」
ゲホッ、と咳が出た。だめだ、いつものように怒鳴り返せない。それをいいことに、杏奈が捲し立てる。
「あんな親、撒くしかないし! あんたのこと知って、金づる見つけたとか思ったらまた来るわよ! あんたもさっさと実家に戻ってあたしのことなんか忘れなさいよ!」
「そんなことっ、できるわけないだろ!!」
「なんでできないのよ!」
「お前が好きだからだよ!!」
ゲホゲホッ。
全然格好がつかない。余裕も何もない。俺はまだガキで、走り疲れてまともに喋れない、そんなどうしようもない男だ。
「お前が…本当に親を捨てたいなら、俺は反対しないよ。」
だけど、ぶつかるしかない。それしかできない。
「お前、本当は許したいんだろ、親のこと。だけどできないんだろ。今決断しなくたっていいよ、俺、住所聞いといたから、いつだって会いにいけるよ、金のことならなんとかするよ、それが嫌なら他の方法一緒に考えるよ、何かお前が納得する形があるはずだろ、一人じゃないよお前は俺がいるから!」
ゲホ、ゲホゲホッ…
「ちょ、無理に喋るのやめなさいよ…」
「とにかく、だから、俺は捨てるな!」
頼むから。
届け。
「俺はまだ学生だけど、ちゃんと自分の力だけで生きていける医者になるから、お前の親父みたいには絶対ならねえよ、心配すんな、お前が親を捨てるなって言うなら、お前のこと親にもちゃんと話すから!」
「だからあたしはそんなこと頼んでないのよ!」
「頼まれてねえよ!!」