スノー アンド アプリコット
やっと大声が出た。
「俺はお前と居る為だったらなんでもできるから、俺と一緒に生きろっつってんだ! まだわかんねえのか!!」
「なんであんたがそんなことしなくちゃなんないの?! なんであんたが…」
杏奈が喉を詰まらせた。
言葉の代わりのように、みるみる涙が溢れ出した。
泣くなよ。
…俺も泣いてるんだっけ?
「…っ、なんであんたが、そこまでしなくちゃなんないの! 普通に幸せになればいいじゃない、わざわざあたしなんかっ…」
それが本音か。
俺の胸に、何かがストンと収まった。
杏奈がせきを切って、もう子どもように泣き喚いている。
「あたしがいなきゃ、あんたなんかセレブな家族団欒でもして、大病院継いで、あんたもあんたの親もみんな万々歳じゃないの、なんでそれができないの、わざわざ不幸な方に行くことなんかっ…」
俺は言い募る杏奈の唇に噛みつくようなキスをした。
杏奈は遮られて、息を飲んでいる。
唇をそっと離して、俺は言った。当たり前のことを。
「…できねえよ。お前がいなきゃ、そんな人生、クソ喰らえだ。」
「………」
「いいか。俺に幸せになってほしかったら、俺を好きになれ。」
杏奈が見開いた瞳からまた一粒、涙を零した。
「……馬鹿じゃないの…?」
「ああ、馬鹿だよ。」
いつかみたいなやり取りをして、俺はまた笑った。
泣いて熱を持った唇に、唇を押しつけた。
ああやっと届いたな、と俺は思った。
10年ぶんの、俺の狂った想いが、やっと。
なあ、アン。
お前が好きだよ。
唇を離すと、杏奈はまた馬鹿じゃないの、と言って、泣き笑いをした。
俺はぎゅうっと杏奈を抱きしめた。