スノー アンド アプリコット
「あれっ、ジョーじゃん、お前何やってんの? 女と痴話喧嘩なんてらしくねえな。何、今日店出んの?」
「ああ、どうも、お久しぶりです。こいつ彼女なんですけど、変な虫ついたらイヤなんで、付いてきただけです。」
「はー? ジョーの女だってよ、おい。」
ユキの話し方からして先輩なんだろう、いかにも売れていそうなホストが数人の取り巻きと近づいてきた。あたしは頼んでもいないのに次々に自己紹介をされ、しげしげと眺められた。
「なんだ、すんげー可愛いじゃん。キャバやってんの?」
「あれ、もしかして"ミリア"のアンナさんじゃないっすか?」
その中の一人が声を上げた。知らない奴に顔が知られてるなんて、ここじゃ珍しくないけど。
「…そうだけど。」
「何、お前、有名なの?」
ユキがあたしを見下ろして聞く。
「別に。ていうか、それ、そのままあたしのセリフなんだけど。」
あんた、あたしが居ない間に一体どんな生活してたわけ?
「…俺のことはいいんだよ。」
「はあ?」
ユキはバツの悪そうな顔をして目を背けた。
別に、いいけど。
「じゃ、あたし、行くから。あんたはオトモダチと仲良くやってれば? じゃあね。」
スタスタとその場をすり抜けていくと、ユキが慌てて後を追ってきた。
「待て待て、おい、アン!」
「おっ、へー、あのジョーが女に置いてかれてるぞ。なんだなんだ、どういうことなんだ、おもしれえなあ。」
「ちょ、じゃ、俺も行くんで! また!」
「おー、そのへんのやつに"ミリア"行くように声かけとくわー。」
「余計なことすんのやめて下さいよ!」
「え? 親切だろ?」
「いやー、しかし生アンナさん、可愛いっすね…」
「ジョーさんの女に手出したら殺されるぞ。」
「わかってますよ!」
背後で好き勝手な会話が繰り広げられた。