蒼の王様、紅の盗賊
もう後ろで縛られている手首の痛みは、なくなった。
長い時間締め付けられて、もう痛みは感じなくなっていた。
だがその代わり、手足の自由が利かずにずっと同じ体勢で居たせいか
身体の色々な所が、痛い。
その痛みから少しでも解放されようと、アスラは後ろにある硬い冷えきった壁に身体を預けた。
背中に、じんわりと冷たい感覚が伝わってくるが
自分の身体だけで支えているよりも、ずっと楽だった。
「はぁぁ....」
身体から力が抜ける。
すると同時に、溜め息に似た吐息が零れる。
(────こんな気持ちになったのは、あの時以来だ)
目を閉じて、ふとそんなことがアスラの頭の中を過る。
暗い。狭い。
そして孤独感。
アスラには、覚えがあった。
(あれから、もう何年経つだろう?)
頭の中に過るのは、思い出したくない記憶。
でも決して、消せない記憶。
どんなに忘れたくとも、記憶は一生付き纏う。
それが楽しいことであれ、苦しいことであれ。
(.......あいつも、同じ眼をしていたな。
あの時の私と)
忌まわしい過去が、頭に思い起こされる中で
その記憶と重なるように、さっき牢の鉄格子越しに見たシュリの蒼い瞳が重なった。
哀しみ。苦しみ。
そして憎しみ。
全てが交ざり合ったような、複雑な蒼。