蒼の王様、紅の盗賊
 
 
 
 
 
 
 
あの時。

アスラが盗賊となったあの日の、彼女自身の瞳に
とてもよく似ていた。






全てに絶望して、光が見出だせなかった。


未来がただ大きな闇に見えて、生きなくていい。
死んでしまおう。

そう思っていたあの時。






(あの男も、同じ気持ちなんだろうか?)




淋しくて、悲しくて。
胸が痛くて、苦しい。

どう足掻いても、抜け出せない闇の中に居るのだろうか?




蒼の王様と言われ、恐れられているあの少年が
冷酷と恐れられるあの少年が

アスラには、どうも可哀相に思えて弱く思えてならない。






捕まっている身で
ましてや明日、その少年に殺されようとしている身で言うのも何なのだが

彼は.....蒼の王様は、本当はあんな残酷な少年ではなくて
人の心の痛みの分かる、優しい人間なのだろうとアスラは思った。








「......なんて、そんなこと思っている場合じゃないんだったな」




頭の中に浮かぶシュリの姿に、そんなことを考えていたアスラだったが

背筋から伝わる寒さで、ハッと我に返って呟いた。






「......此処からどう抜け出すかを、もう一度考えないと
もうそんなに、時間はない」




じっとしているだけでは、夜は更けていくばかり。

終わりは、刻々と近付く。






「私はまだ.....死ぬわけにはいかないんだ」







 
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