蒼の王様、紅の盗賊
(.....そんなアスラを、死なせるわけにはいかねぇッ!)
平和を望み、身を削ってまで生きるアスラが殺されて
この国に、この世界にのさばる悪が存在し続けるなんて
そんな世界、もう本当に救いようがない世界だと思った。
本当に、もう人間の薄汚い欲に溺れゆくことしか出来ない哀しい世界だと思った。
「......俺が何とかしないと」
力を籠めていた手のひらを解き、再び決意したように前を見た。
そう。
今、この状況を奪回することが出来るのは.....自分しかいない。
この蒼の王様の城に、この身一つで乗り込む馬鹿なんて
自分しか居ないのだから。
「よし、行くか」
強い決意を胸に、再び前に歩み出そうと足を踏み出す。
未だ場所が掴めない、アスラの元へ向かって。
―――――.....ッ。
透き通るような声。
言葉はない、流れるような静かなメロディー。
耳に流れ込んできたのは、何か歌のようなものだった。
「.....これは」
不気味な程に静かな城の中に、溶け込むように響く歌声。
バルトには、この歌に何処か聞き覚えがあった。
「アスラ――――.....」
そうだ。
これは、いつもアスラが口ずさんでいたメロディーと同じだ。
透き通るようなこの声も、言葉のないこの歌も
これは....彼女の、アスラのものだった。