蒼の王様、紅の盗賊
(.......裏切り者)
夢の中で、アスラは少女と同じ言葉を呟いた。
裏切り者。
その言葉に当てはまる人物はアスラの中で、ある一人を除いて他には居なかった。
あの男。
生涯、何があってもあの男だけは許せなかった。
あの....自分から全てを奪った男だけは。
(あの男さえ.....あの男さえ居なければ、私は――――)
急に頭が痛くなる。
胸がグッと苦しくなる。
(私は、こんな苦しみを味わうことなんて無かった。
盗賊として、今こうして生きてはいなかった)
目を閉じたまま、アスラは思う。
この瞳を開いた先に居るのは、幼き頃の自分と憎むべき者の姿。
目を開けたくはなかった。見たくはなかった。
でも、見なければならない気がして.....向かい合わなければいけない気がして
アスラは、固く閉じた瞳を開いた。
「裏切り?何を言っているのです?
私の目的は、最初からこれだけ。裏切ったつもりなど更々ない」
「――――ッ」
目を開けて広がるのは、向かい合う二つの人影。
小さい少女の影。
そして少女を見下ろすように立つ大きな影。
アスラはその光景に、唇を噛み締めた。
「さぁ、貴方にも死んでもらわねば。
貴方の父上と、母上の元にね」
唇を噛み締めるアスラを尻目に、男の冷酷な声が響く。