蒼の王様、紅の盗賊
 
 
 
 
 
 
 
もう今にも落ちてしまいそうな、その時だった。

頭上から、自分の名を呼ぶ声がした。







「......おっさんッ!」



苦しさを押し込めて、声のする方を見上げる。
そしてその視界に映る者―――仲間のクロアの姿に、思わず顔が綻んだ。






「バルト、これに掴まれ」



そんなバルトにクロアはロープを投げ渡す。

そのロープをどうにか片手で受けとめて、バルトは力を振り絞り自分の身体に括り付けた。


解けることのないように、ロープを歯で噛み締めてグッと結ぶ。
それと同時に、バルトの体力は尽きた。






―――――グッ。

宙に投げ出されるような形になったバルトを、クロアが城壁の上から引き上げる。
引き上げられるバルトの身体はゆっくりと上がっていき、やがてクロアの居る城壁の上に辿り着いた。








「バルト、お前はいつも本当に無茶をする。
いつもハラハラする俺の身にもなってみろッ!」



引き上げられたバルトに注がれるのは、そんな厳しい言葉と痛々しい程のクロアの視線。





「クロアのおっさん....助かったぜぇ.....」




そんなクロアの言葉と視線に、バルトはいつもの何も緊張感のない反省のない声でニカッと笑う。

そのバルトの笑顔に、クロアは諦めたように深い溜め息をつく。






「.....本当に、お前という奴は――――まぁ、いい。
とりあえず今は此処から逃げるのが先決だ。行くぞ」




「うおッ!?縄を引っ張るなっておっさん!?
落ちるだろッ」







 
< 159 / 317 >

この作品をシェア

pagetop