蒼の王様、紅の盗賊
冷たい心地のする風に、レイアから発せられたアスラの名前が静かに漂う。
「団長はあの子に借りがあるの。
アスラが居なければ、今のあの人はなかった。
だからあの子のためになら―――――」
そこまで言うとレイアは、それきり黙り込んだ。
そんなレイアを前に、それ以上言葉を求めることも
また、何か言葉を発することも出来ないジルはただ流れる沈黙に身を任せるしか出来ない。
また再び、静かな時が流れた。
――――タッタッタタ....。
流れる時間。
夜の静寂。
夜の闇に揺れるレイアの想い。
全てがひとつに会すこの空間に、遠くからこちらへと近付く靴音が唐突に響き渡ってくる。
その靴音は次第に大きくなり、夜の冷えた空気を伝ってレイアとジル二人の鼓膜を震わせる。
その靴音の先を見つめる。
だが、その姿は闇に紛れて瞳の中には届かない。
「――――来たわ」
レイアは靴音の響く闇の先を見据え、呟くように口を開いた。
姿は見えない。
だが、彼女のその言葉には確信があった。
「レイア。待たせたな」
靴音がすぐそこまでやってきて、レイアたちの目の前でフッと止まった。
闇の中にようやく人の姿を捉え、瞳の中に二つの人影を映す。
「団長....それに、バルト」