蒼の王様、紅の盗賊
 
 
 
 
 
「───もう下がっていい。
疲れただろう、ゆっくり身体を安めろ」




頭を深々と下げ、自分に忠誠を誓う彼等を前に王は、ふと目を逸らす。
そのまま背を向け、部屋の奥へと歩を進める。






「───悪は、明日もこの国を貪る。奴等は留まることを知らない。
明日からも....頼むぞ」




シュリは背を向けたままそう言うと、そのまま部屋の奥にある扉へと姿を消していった。










「........行ってしまわれた」



王が去り部屋へと取り残された兵たちは王が入っていった扉に目をやり、そう呟いた。





「────あの方は、本当にお優しい方だ。
若くして王位に就かれたというのに....もうあれほどまでに、この国のことを考えていらっしゃる」




兵たちは、もう見えなくなってしまった王の姿に思わず日頃、心にある言葉が口から零れた。
一人がぼそりと呟いたその言葉に、他の兵たちは同意をするように頷く。






「ただ....あの方が時々恐くなる時がある。

悪を目の前にした時の、あの方の姿。心の底からの憎しみと、何処か哀しみの籠もったあの瞳が....無性に恐くなる時がある」






いつも基本的には、穏やかである王の姿。


無表情であまり感情を出す人ではない。
だが国のことを心から考えている、良き王だと彼に仕える兵たちは思っていた。




 
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