蒼の王様、紅の盗賊
ギッと睨み付けた私に、衛兵は明らかにイラッとした様子で眉を釣り上げたが、この民衆の前ではいくら相手が罪人で人間以下であるとしても世間体に問題があるらしい。
衛兵は込み上げる怒りを押し込めるように拳に力を込めると、私を拘束する縄を掴みそのままグッと引っ張った。
グイグイと引っ張られ、私の身体に縄が食い込む。
もう昨日からずっと縛り付けられている身体は、もう痛みを感じない程に麻痺していたが少しだけまだ痛みの感覚が残っていたらしくて、じんわりとした痛みが身体に響いた。
「連行、完了しました」
私はそのまま広場に開いた空間の中央まで歩かされた。
衛兵は中央の辺りで止まりそのまま誰かの元に歩み寄ると、その誰かにそう言う。
「ご苦労」
衛兵が話し掛けたその誰かの姿は、衛兵が影になっていてよく見えない。
だがその後に聞こえた短い返事に、私にはさっきあの馬車の中で聞いた低い声の主だということが分かった。
(......この男、この衛兵たちの隊長か何かか?)
私はそう思った。
どうやら衛兵の口調などから察するに、この低い声の主はこの衛兵よりも位が上。
低い声だからというわけではないが、どことなくその低い声は偉そうというか―――人を見下したような冷たい嫌な声だった。