蒼の王様、紅の盗賊
「何だ?お前は」
私の声に気が付いた衛兵が、こちらを振り返り怪訝そう見る。
だが私の目はそんな衛兵をそっちのけで、振り返った衛兵のその先の男の姿に釘付けになっていた。
私の目一杯に開かれた紅の瞳の中には、ただ一つその男の影がくっきりと刻まれる。
「お前....何故此処に.....」
私は喉の奥に突っ掛かってなかなか出てこない声を、無理矢理に絞り出して呟く。
「――――レスト....」
そして私は瞳に映った男の名を―――憎むべき男の名を、忌まわしき記憶の中に深々と刻み込まれた男の名を呟いた。
消えるような私の呟き。
その呟きに気が付いたように、嫌な声の男の―――レストの翡翠色の瞳が私を捉えた。
「.....ほう。私の名を知っているとは、なかなか聡明な盗賊も居るものだ」
低い声が響く。
そういうレストの顔は無表情のまま。光の灯らない濁った翡翠色の瞳で私を静かに見据えていた。
「......ッ」
低いその声が耳にそして脳にまで響き渡り、私の頭に血が上がる。
身体中が、熱くなる。
「まぁ、幾ら聡明とはいえ所詮は盗賊。死にゆく身。
そのような下賤が、私の名を知っていたところで何てことはない」