蒼の王様、紅の盗賊
 
 
 
 
 
 
 
 
「何だ?お前は」



私の声に気が付いた衛兵が、こちらを振り返り怪訝そう見る。

だが私の目はそんな衛兵をそっちのけで、振り返った衛兵のその先の男の姿に釘付けになっていた。

私の目一杯に開かれた紅の瞳の中には、ただ一つその男の影がくっきりと刻まれる。







「お前....何故此処に.....」


私は喉の奥に突っ掛かってなかなか出てこない声を、無理矢理に絞り出して呟く。






「――――レスト....」



そして私は瞳に映った男の名を―――憎むべき男の名を、忌まわしき記憶の中に深々と刻み込まれた男の名を呟いた。


消えるような私の呟き。
その呟きに気が付いたように、嫌な声の男の―――レストの翡翠色の瞳が私を捉えた。







「.....ほう。私の名を知っているとは、なかなか聡明な盗賊も居るものだ」



低い声が響く。
そういうレストの顔は無表情のまま。光の灯らない濁った翡翠色の瞳で私を静かに見据えていた。






「......ッ」


低いその声が耳にそして脳にまで響き渡り、私の頭に血が上がる。
身体中が、熱くなる。






「まぁ、幾ら聡明とはいえ所詮は盗賊。死にゆく身。
そのような下賤が、私の名を知っていたところで何てことはない」






 
< 200 / 317 >

この作品をシェア

pagetop