蒼の王様、紅の盗賊
「さぁ、最後に言い残すことはないか?」
「―――.....」
シュリが問う。
だが、アスラは答えない。
「.....ふん。無いならいい」
何も言わないアスラに、一瞬だけ興醒めしたような表情を見せて鼻で笑う。
そしてそのまま鋭く冷たい、だが何処か楽しんでいるような蒼い瞳でアスラを見つめて短く、だがはっきりとした声で続けた。
「火を放て」
衛兵の手から松明が離れる。
手から離れた松明は火を揺らめかせながら、スローモーションのようにゆっくり下へと落ちていく。
揺れる松明から舞い落ちる火の粉が、アスラの下に積み上げられた木の枝に降り注ぐ。
そして。
ボオォォ....パチパチパチ。
落ちた松明の火がアスラの足元に落ち、組み上げられた木の枝たちに燃え移った。
民衆達が騒めき始める。
興奮して騒ぐ者も居る。ピュウッと口笛を吹き囃し立てる者も居る。
民衆の意識が、次第に大きくなる処刑台の炎に釘付けになっていた。
枝に燃え移った炎が、パチパチと弾ける音を上げ、処刑台の上に熱気と煙が込み上げる。
火を放った衛兵は、アスラの方を見て卑屈に笑うとそのままスッと隅へと退散する。
炎はだんだん大きくなり、その中にアスラだけが取り残された。