蒼の王様、紅の盗賊
そして暫らくして、だんだんと晴れてくる煙。
混乱逆巻く広場。
煙に遮られていた視界が開かれ、崩れた処刑台を見上げてある人は気が付く。
「......紅の盗賊が、居ない」
呟くように零れたその声は、薄くはなったが未だ充満する煙の粒子を伝わって空間中を連鎖する。
無残にも崩れ去った処刑台はその残骸を糧に燃え続ける炎に包まれて、その中央には唯一焼け残った柱が。
だがそこには居るはずである罪人の―――此処で火炙りにされていたはずの紅の盗賊の姿はない。
ただ無人で炎の中に佇んでいる。
「と....逃亡だぁ!」
叫び声が谺する。
その叫びに混乱に騒めく人の声が、フッと止んだ。
誰も居なくなった処刑台は、視線を浴び悠々と存在していた。
そしてその集めた視線は、次第に民衆たちの叫び声と衛兵達の怒号の合唱に変わった。