蒼の王様、紅の盗賊






薙ぎ払われた水差しは、激しい音を立てて床へと叩きつけられ粉砕する。



砕け散った水差しの欠片はシュリの足元に散る。

粉々に砕けたその欠片は、荒々しいシュリと裏腹にキラキラと綺麗に輝いた。







「はぁ....はぁ....」


足元で輝く小さな硝子の欠片たちを見下ろし、シュリは抑え切れぬ感情に息を切らす。



あの紅の盗賊.....アスラと出会ってから、シュリの感情は激しく起伏するようになった。

あまり感情を表に出さなかったシュリが、彼女を前にするとその感情が抑えられなくなるのだ。
揺さ振られるのだ。





あぁ。どうしてこんなにも一介の盗賊などにこんなにも心掻き乱されるのか。


やっぱり判らない。
シュリにはいくら考えても、その答えは判らなかった。

積もる頭の中のモヤモヤに、シュリは流れるような長い銀髪を掻き毟った。










――――コンコンッ。





「―――――シュリ様。私です。
話しておきたいことがございます。御拝謁の許しを」




そんなシュリの元に、扉の向こう側から低く落ち着き払った声がした。




低く少しだけ曇ったようなその声は、彼にとっては聞き慣れた声。

その声にシュリは扉の向こう側の者の姿を想像し、ハッと我に返って乱れる気持ちを無理矢理に押し込める。
そして掻き乱した銀色の長髪を急いで手櫛で梳かし、王としての自分の容姿を整えた。





 
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