蒼の王様、紅の盗賊






僅かに、レストの身体が震える。




それは、たった今彼に起こった奇跡とも言える彼の仕える王の心境の変化に対するもの。


あの悲惨な出来事以来、今まで城に自分に閉じこもり続けていた王が、新たなる一歩を踏み出したことに対する喜びか。
驚くべき心境の変化を遂げた王に対する激励か、感動か。










いや、違う。
どれも違う。

今、彼が震えるその原因は王に対する喜びでも激励でも、感動でもなかった。





そう。
今の彼の震えは、それらの全てと異なるもの。

それも、相反するものだった。












「あの王が、短い時であそこまで変わった理由......あの小娘か」



憎らしげに。
そして忌々しげに、彼は夜の闇に言葉を続けた。








「――――――面倒なことになったな」




そして彼は、一層顔を歪めた。


その姿はいつもの彼からは想像し得ない程に醜悪で、それは夜の闇にも負けない程の底知れぬ闇を纏っているように見えた。

そんな彼の姿を、揺れる光が白い大理石の床に鮮明に映し出す。









「.......忌々しい小娘だ。紅の盗賊よ」




彼の脳裏に思い出されるのは、処刑台を前に深紅の髪を揺らし紅の瞳で自分を睨み付ける女の姿。

その紅の瞳には、言葉では言い表わせぬ程の憎しみが籠められていた。





 
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