蒼の王様、紅の盗賊
『―――レストォオッ!』
彼女の声が、脳に焼き付く。
地を轟かすような憎しみと悲しみの交ざった、自分の名を呼ぶ彼女の叫びがレストの中に谺する。
何度も、何度も。
離れない叫び。
鋭く光る、紅の眼光。
思い出される光景に、レストの中に一つの疑問が浮かんでくる。
「..........それにしてもあの娘、何故私の名を知っていた?」
浮かび上がる疑問。
自分の名を狂ったように叫ぶ彼女を、レストは知らなかった。
思い当たる節は......無いわけではない。
だがそれは、現実にはとても有り得ないことで自動的に選択肢の中から外されてしまうようなこと。
現実に、起こるはずはないことなのだ。
「まさか.......いや、それは絶対にあるまい」
選択肢から外されるその可能性。
だがレストは、どうしてもその可能性を消し切れずに口から言葉が漏れる。
深紅の髪。
紅の瞳。
そしてあの紅の盗賊の、アスラという名前。
その全てに重なる人物が、レストの記憶の中に一人だけ.....たった一人だけ存在する。
だが、それは偶然だ。
偶然でなければ、おかしい。
処刑台を前に自分の名を叫んだ彼女と、自分の記憶の中の人物が重なるはずなどないのだ。
そんな可能性、有り得やしないのだ。