蒼の王様、紅の盗賊







ガサッ。

声の聞こえたまたその数秒後に、レストの視線の先の草蔭からスッと黒い影が横へと進み出た。







「レスト様。
紅の盗賊の件で、お伝えしたいことがございます」





月明かり。
それに照らされて、露になるその人影の姿。


スラリとした長身に、闇に溶け込むように艶やかな黒の光沢を放つ髪。
そして鋭く刺すような、銀色の切れ長な瞳。

そしてそんな彼が身に付けるものは、その全てが漆黒で夜の闇そのもの。
その容貌は、明らかにこの国の兵士のものではない。




そんな男が、レストの前へと現れスッと彼の前に跪く。











「ご苦労だった、ユエよ。
それで、逃げたあの小娘の行方は掴めたのか?」



「いえ、まだ掴めておりませぬ」





レストの低い声に、ユエと呼ばれたその男は静かな声で答えた。



ユエの答えるその声には悔しさも恐ろしさもない。

感情なく、抑揚のないただ淡々とした声が二人以外に誰も居ないこの場所に響く。








「レスト様のご命令通り、部下の者達に行方を追わせております。
城下の街に蔓延っている下党の輩にも呼び掛けましたが、これと言った情報は未だこちらに入って来てはおりません。

恐らく......奴等は早々にこの国から脱出し、もう既にこの国には居ないかと」




 
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