蒼の王様、紅の盗賊
ユエの声が淡々と響き、その言葉にレストは顔を歪めた。
「そうか......全くあの小娘、どれだけ私に面倒を掛ければ気が済むのだ。
本当に、忌々しい」
「いかがなさいましょう?
ご命令とあらば、奴の行方を追いますが」
レストの言葉に、間髪入れず答えるユエ。
そんなユエの言葉にレストは、少し間を置く。
考え込むように片方だけ覗く翡翠の輝きを数秒閉じ、そしてまた開いた。
「いや、構わん。
.......恐らくあの小娘とその仲間はお前の報告通り、もうこの国の包囲網から脱出しているだろう。奴等も馬鹿ではない。
だがそれは、事の熱(ほとぼ)りが治まるまでのこと。
.......きっと奴等は、この国へと戻ってくる」
「何故そう言えると?」
「..........確証はない。
だが、必ず奴は戻ってくるという確信は何故かあるのだ」
翡翠色が闇に怪しく煌めいた。
サアァァッ。
唐突に半円のアーチの間を吹き抜けた風に、その翡翠色の光が宙に流され、そして消える。
「........分かりました。では、そのように致します。
他に何か申し付けがあれば」
その翡翠の煌めきを、ユエは跪き視界を覆う黒髪の隙間からほんの少し探るように垣間見て、また視線を下へと戻し答えた。
口調は、やはり変わらない。