蒼の王様、紅の盗賊
ッ。
地面に突いていた片膝を上げ、ユエはレストに背を向けた。
唯一月明かりに照らし出されていた肌の色が見えなくなり、彼の存在が闇に紛れる。
「待て」
「.....何か?」
そのまま先程現れた闇の中に再び消えようとするユエを、レストの声が制止する。
その声にユエは軽くレストの方を振り返り、短く答えた。
「実はな、あの紅の盗賊の小娘の他にもう一つ面倒なことが起こった。
......悪い芽は早いうちに摘んでしまわねば、後々私達に害が来る」
「.......」
「―――――リズとロゼに連絡を取れ。
リズとロゼ、そしてユエ。お前達には特別に仕事をやる」
「..........御意」
軽く振り返り微かに頷く素振りを見せ、ユエは再びレストに背を向ける。
そしてそのまま闇の中へと消え、完全に姿が闇に溶け込んだ。
闇へと消えたユエの姿に、もう彼の気配すら感じない。
元々存在感がない男ではあるが、ここまで何も気配を感じさせないというのは熟練した彼だからこそ為し得る業だった。
間謀、忍としての彼の業に、レストは満足気に怪しく笑う。
「......本当に、使える奴だ」
ククッと笑うその声の余韻を夜の闇に溶け込ませ、レストは何事もなかったように止めていた足を再び前へと動かし始めた。