蒼の王様、紅の盗賊
警戒しないでほしい。
盗賊と名乗る者にそんなことを言われ、普通なら「はい、そうですか」と警戒を解く者は居ないだろう。
盗賊。
それはまるで世界の絶対の掟の如く、悪という位置にある。
そう。
ジル達がそうであったように。
世間が皆、そうであるように。
盗賊など、そんな簡単に信じられるはずがない。
そのはずなのに。
そのはずだったのに。
彼女の.....アスラの真っ直ぐこちらを見る紅の瞳に、盗賊という言葉への軽蔑に似た疑いが晴れていくような気がした。
紅の瞳は汚れがなく、あまりに無垢で。
そして底が知れない程、何処か哀しげで。
どうしても彼女のその瞳を疑うことが出来なくて、ジル達は気付いた時にはアスラを自分達の住まいである廃墟に招き入れていた。
「........アスラは何度となく、我々を救ってくれた。
自分を犠牲にしてまで。
あの子が居なければ、今こうして生きて月を見上げることは無かった」
ジルは脳裏にアスラとの出会いを浮かべ、ゆっくりと夜の闇に煌めく月を見上げる。
目に映る月。
感じる、夜の風。
自分は今此処に生きているのだと、そう実感した。
――――ッ。
大きく息を吸い込み、そして吐き出す。
ひんやりと冷たい空気が、ジルの肺を満たし、そして無くなる。