蒼の王様、紅の盗賊
「........あの子達が、無事にこの国を脱していればいいのだが」
思わず、疑問の言葉が零れる。
頭の中に浮かぶアスラの.....そしてその仲間達の顔を想い、ジルは月を仰いでいた瞳を伏せた。
「どうか、無事であることを」
お願いだ。
どうか、お願いします。
零れた疑問は祈念へと変わり、空高くにある月へと昇っていく。
その祈りが届くかは分からない。
だが、ジルには祈ることしか出来なくてひたすら祈った。
――――タッタッタッタッ。
瞑想と祈りに更ける中、静かな月の夜の澄んだ冷たい空気を遠くからこちらへ近付く足音が震わせる。
遠くから小さく聞こえるその音が、確実に自分の元に近付いて来るのが目を閉じたままのジルには分かった。
―――ッ。
聞こえてきた音は次第に大きくなり案の定、目を閉じたまま月を仰ぐジルの前でピタリと止まった。
「おい、そこの老人」
「........何だね?」
声を掛けられ、ジルは少し間を置いて答えた。
気配から察するに、相手は五六人。おそらくその全てが衛兵だろう。
(......遂に此処まで、追っ手が来たかの)
いずれはアスラ達を追う兵が此処までやってくることは、あらかた予想はついていた。
きっとアスラがこの場所に出入りしていたことが、何処からか漏れたのだろう。