蒼の王様、紅の盗賊
やれやれ。
この国の指導者の気が知れない。
ジルはそう心の中で呆れつつ、落ち着いた表情のまま答えた。
「勘違いをなさられますな。
見ての通り、此処は国からも世間からも見放された者達が、身を寄せ合って暮らす場所。
そのような大それたことを出来るような者は居りませぬ」
「では何故、奴等は此処に出入りしていたっ!?」
「脅されていたのです。
自分が居ることを黙っていなければ、此処を潰すと。
ただでさえ、いつ崩れるか分からないこの場所。ですが我々にとっては、此処が唯一の生きる場所なのです。
此処を失えば此処に暮らす者は皆、途方に迷います。金も力も地位もない我々には、何も出来ますまい」
「.......」
少しだけ苛立ったような衛兵の声を挟み、ジルは間髪入れずに言葉を放った。
冷静に静かな調子で、だが何処か国に対する厭味のようなものを絶妙に折り込んで言った言葉に、衛兵は思わず声を詰まらせた。
「国家を守る衛兵殿方のご命令とあらば、此処の隅々まで調べて頂いても構いません。
......我々の全てを見て、それでも疑うというのならば――――我々はそれがこの世の道理として受け入れましょう」
静かに響くジルの声には、いやに威圧感があって衛兵は一瞬顔を歪めると、抜きかけていた剣を鞘へと戻した。
そして剣の柄から手を外し、後ろに居る数人の兵に振り向かないまま指示を飛ばす。
「.........お前達この中を調べて来い」