蒼の王様、紅の盗賊
聞こえるのは、城の周りの木々が風に騒めく音。
そして静けさ故の耳鳴りのような僅かなノイズ。
「.........だけれど、暫らくは此処でおとなしくしていた方が良さそうね」
ゆっくりと流れる静寂と時間。
月を見上げたまま、レイアは怒っているようでも嬉しく思っているようでもなく、ただ呟くように言葉を溢した。
「.......」
その言葉に、クロアは尚も何も言わないまま月を見上げていた。
何かに憂いるのような。
そんな視線を月に向けて、クロアはこの静寂に包まれた夜の空間に浸っているようだった。
そんなクロアの姿は、まるでこの空間から独り切り離されたよう。
同じ空間に居るはずなのに、何故か二人別々の空間に居るような孤独感に襲われて、レイアは月を見上げるのを止めてスッとその場で身を翻した。
「.......団長、私あの子達の様子を見に行ってくるわ」
「あぁ.....頼む」
クロアの返事にレイアは一つ頷く。
そしてクロアの方は敢えて見ず、奥の方に一つある長く続く渡り廊下へと歩み始めた。
その渡り廊下もやはり所々が崩れていて、大理石で出来た床はその美しさの面影もなく澱み、両サイドに聳えるアーチ状の柱は廊下の真ん中辺りで途切れてしまっている。
そんな渡り廊下の先には、城の離れの建物がある。
その建物は城から離れた所にあったためか、クロアとレイアが居た場所ほど崩壊は激しくない。