蒼の王様、紅の盗賊
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..............ッ。
あの時のことは、今でも忘れられない。
血塗れの広間を進む俺の意識を奪ったのは、王と王妃の苦痛の死に顔.......ではない。
何かを感じ振り返る俺の目に映ったのは、血塗れの小さな手が俺の足を掴む様。
ぐったりと床に投げ捨てられたあの王女が、虫の息で小さな手で俺を止めようとするその様。
俺はその手をうざったく思い、無慈悲に蹴り払い再び王と王妃へ向かい歩き出そうとする。
ッ。
だが、何で振り払ってもまた這い上がり俺の足を掴む小さな手。
何度も何度も......俺はさすがに苛々してきて王女の方に凄みを利かせた睨みを送った。
王女と言えど、ただのガキ。
この状況でまだ生きている生命力には驚いたが、そろそろ面倒だ。
少し怯えさせて最期にその顔を拝んでやろう、そう思って見てやった。
...........。
睨んでやった。
小さな、王女を。女の子を。
だが、肝を抜かれたのは俺の方だった。
もうきっと意識も疎らだろうに、王女は目を見開き一切逸らすことの出来ないような強い瞳で俺を見ていた。
色んな悪行を重ね様々な場面を乗り越えてきた俺に、ゴクリと息を飲ませる程の強い瞳で俺を見ていた。
そして小さな手はしっかりと俺の足を掴む。
否が応でもこれ以上は行かせまいと。
.........どうしてだろう。
俺はその手を、どうしてももう一度振り払うことが出来なかった。
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