蒼の王様、紅の盗賊
「........どう....して」
強い瞳を向ける彼女。
きっと意識も朦朧としているはずなのに決して瞳を逸らさない。
小さな手に今ある有りっ丈の力を込めて俺を止める彼女は、言葉にならないような掠れる声で言う。
どうして、か。
彼女は俺に訊ねているのか。
今このような状況であるわけを。この現実の理由を。
だが、俺は答えなかった。
何故なら、彼女のその問い掛けの答えを俺は持っていなかったから。
理由など、無かったから。
「どうして........」
答えぬ俺に彼女は繰り返す。
いくら同じことを俺に問い掛けても、答えられることはないのに。
彼女は掠れる声で、また呟く。
何度も、何度も。
「理由など――――」
あまりに何度も言う彼女に俺は微かな苛立ちを覚えて、理由など無いという今がこの現実である理由を言ってやろうと口を開いた。
「どうして..........どう....して、貴方は......そんなに哀しい目を、しているの?」
だが、俺は開きかけた口を閉じる。
それは俺が勝手に想像した彼女の俺に対する問い掛けが、違っていたから。
どうして、と問い掛け求める答えが俺の想像と違っていたから。
俺は彼女がこの今の現実に―――俺達の手によって全てを奪われ壊された現実を前にその理由を俺に求めているのだとばかり思っていた。
だが彼女の言葉は、どうしてそんなに哀しい目をしているのか。
そんなことを問う言葉。
この状況を前に、自分が死にかけているというのに出て来たのはそんな言葉。
「..........何故そんなことを問う?」
普段ならきっと相手になどしていなかったに違いない。
だけれどこの時俺は反射的に問い返していた。
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