蒼の王様、紅の盗賊
〜2〜







死にかけた彼女。
自らが襲撃して壊滅させた小さな国の小さな城の、小さな姫君。

いつのまにかそんな彼女を抱き上げた俺は、彼女を抱いたまま静まり返った森を進んでいた。




どうして、こんなことをしているのか?
俺自身にも全然分からなくて、正直困惑していた。


だが、困惑とは裏腹に身体の奥底から沸き上がる感情。

.......この子を、死なせてはいけない。
そんな今まで悪行に身を染めてきた俺からは考えられない感情が、俺をこんな行動に突き動かしていた。





きっと、アジトでは他の仲間が俺の帰りを待っているだろう。
.......まぁ、もう先走ってお宝を山分けし祝杯を上げているかもしれないが。


いつもの俺ならば、真っ先に戻っているはずなのに。
俺はアジトとは正反対の静寂な森を歩いている。

いつもの自分とのギャップに、何だか変な気持ちになった。







ドサリッ。

森を吹き抜ける心地良い風に暫く晒されて暫く歩き、少し開けた場所に来たところで俺は腕に抱いた小さな身体を下ろした。



早く治療してやらねば、この子は死ぬ。

俺は自分の着ていた服を裂いて、傷口を塞いでやる。
だが彼女の傷は思ったよりも深くて、これだけではきっと危うい。


薬でもあれば、傷の治りも早いだろうが生憎そんなものは持っていない。
俺は取り敢えず出来る処置を彼女に施すと、彼女を地面に寝かせたままその場に立ち上がった。




薬が、必要だ。

立ち上がった理由はそれで、俺は彼女を置いたまま近くの人里へと走る。


あまり彼女を一人しておくわけには行かない。
この時俺は、柄にも無く自分以外の他人のために必死になって走っていた。


全力で走ったおかげかほんの数分で人里へと出た。

だが時は夜。
家も店も、皆閉まっていた。







.
< 274 / 317 >

この作品をシェア

pagetop