蒼の王様、紅の盗賊
何処か適当な家を狙って盗みに入るか。
そんな汚れた考えが当たり前のように俺の頭に浮かんだ瞬間に見つけたのは、一件だけまだ灯りが灯る家。
丁度いい。
あの家にしよう。
寝込みを襲うのは安全で上策だが、この時は急がねばならない理由があり家の中を物色するのは手間だった。
だから俺は灯りのある家を、素直に訪ねることにした。
勿論、何か少しでも渋ればいつでも相手を殺せる準備をして。
俺は短剣を忍ばせて、唯一まだ灯りの灯るその家の扉を叩いた。
「......はい、どちら様で?」
扉を叩いて数秒後、そういう声がして扉が開く。
訪問者をちゃんと確認もせず扉を開くとは不用心な、とそんなことを思いつつ開く扉を見る俺。
出て来たのは人の良さそうな老婆。
扉を開けた老婆と俺の視線が重なる。
「あらあら、こんな時間にお客人かい?」
自分で言うのも何だか俺はあまり目つきが宜しくない。
だから不審に思われ叫ばるかと短剣を密かに握ったが、老婆からは穏やかな笑みと言葉。
俺は少しだけ拍子抜けしつつも時間が無いので、単刀直入に薬を分けてほしいと老婆に言う。
詳しい説明もしなかった。愛想だって更々無い。
俺が薬を求め下りた人里は明らかに裕福な者達が住んでいる場所ではなく、むしろ最低限の生活をやっと送れているよう身思慕らしい村。
薬だってそう安いもんじゃない訳で、正直詳しい理由も述べぬ素性の知れない俺が薬を分けてほしいと言った所で素直に分けてくれるとは思っていなかった。
少なくとも俺の記憶や経験の中では、自分の生活を犠牲にしてまで見ず知らずの他人を助けるお人好しとは出会ったことが無かった。
俺は早くも短剣を握り直す。
だがそんな俺に返ってきたのは、老婆の驚いた顔と予想もしない言葉。
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